糸選び。そのタオルに、ふさわしい1本を見極める。
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私たちのタオルづくりは、まず「糸選び」から始まります。
自ら糸を紡ぐ紡績(ぼうせき)の設備を持たない私たちにとって、国内外の無数の選択肢の中からそのタオルに最も適した1本を見極めることは、ものづくりの大切な出発点です。派手な工程ではありませんが、そこには私たちがこれまでに蓄積してきた知見や、ふさわしい糸を求めて試行錯誤を繰り返してきた時間が、静かに込められています。
一、創業から95年、黒衣として糸を見つめてきた
私たちのものづくりの大部分は、さまざまなブランドや企業様からお任せいただくOEM(受託製造)です。
1931年の創業から95年にわたり、私たちは黒衣として、お客様が思い描く千差万別の理想を形にしてきました。届くご要望は「毎日ガシガシ洗濯してもへたらないタフさ」から「生まれたての赤ちゃんが安心して使える繊細さ」まで、時には全く真逆であることも少なくありません。
特定の定番糸に縛られない自由な選択肢を残しておくこと。それが、お客様の思い描く理想を丁寧に形にするために、私たちが大切にしている姿勢です。
国内外の紡績会社と深く繋がり、長年にわたって蓄積してきた糸の引き出し。自社に紡績の設備を持たないからこそ、私たちは紡績会社とパートナーシップを結び、世の中にない風合いを表現するために「糸そのものを共同開発する」こともあります。こうした探求の積み重ねにより、これまでに糸やその加工に関する特許を2件取得し、現在はさらに1件の特許を申請しています(2026年現在)。
二、過酷なホテルの強さと、生まれたての赤ちゃんのやさしさと
タオルは、日々の暮らしのあらゆる場面に寄り添う道具だからこそ、私たちのもとには実にさまざまなご要望が届きます。時には、全く対極にある二つの要求に応えなければならないこともあります。
例えば、ホテルのリネンサプライ(業務用の過酷な洗濯・乾燥・高温プレス)の環境に耐えうる、びくともしない強さを持ったタオル。そこでは、物理的な摩擦で繊維が擦り切れないよう、太い糸を2本強くねじり合わせた構造(双糸や強撚糸)を用い、織りの密度を緻密に高める設計をします。
一方で、産婦人科の現場に納める、生まれたての赤ちゃんの肌を包むためのタオル。そこでは、摩擦を極限まで減らすために、繊維が長くなめらかな綿を厳選し、糸のねじりを限界まで甘く制御する(甘撚り)ことで、空気を編み込むようにやわらかく仕上げます。
私たちは、こうした現場で培ってきた知見をもとに、お客様のご要望に応えるべく、日々工夫を重ねています。
三、相反する理想(トレードオフ)を超える「カバーリング技術」
ホテルのような強さを持たせる設計と、生まれたての赤ちゃんを包むやわらかさを引き出す設計。本来、対極にあるこの二つの性質を一枚のタオルで両立させることは、タオルづくりの世界において難しいことだとされてきました。
これまでに数々の糸と向き合ってきた経験から、自社ブランド『KUSU the sea』において、私たちはある挑戦をすることにしました。
それが、やわらかさと耐久性を一枚のタオルで両立させること、そして水溶性プラスチック(PVA)に頼らないものづくりです。
一般的に、タオルのやわらかさと耐久性はトレードオフの関係にあります。糸のねじりをなくした「無撚糸(むねんし)」は、極上のやわらかさを持ちますが、そのままでは非常に切れやすく織ることが困難なため、PVAという水に溶けるプラスチックの糸を一緒に巻き付けて補強するのが業界の常識です。
しかし、私たちはその「水に溶け出したプラスチックが海へ流出するリスク」を直視し、別の道を模索しました。
辿り着いたのは、ふわふわの綿の束のまわりに、自社の設備で「極細の綿の糸」を絶妙な力加減で巻き付けて補強する独自のカバーリング技術です。
どの品種の綿を使い、どれだけの細さに引いた糸を、どれくらいのピッチで巻けば、摩擦に耐えて美しいタオルが織り上がるのか。これは、95年のOEMの現場で培った糸への知見と、自社で撚糸技術を探求し続けてきた歴史がなければ、辿り着けなかった選択でした。
私たちは今日も、届いた糸の1本1本を見つめながら、その先にある誰かの肌と、未来の海を想って試行錯誤を重ねています。
Technical & Process Reference
- カバーリング(被覆)技術によるPVAフリー強度保持メカニズム(PVA-free Structural Mechanics)一般的な無撚糸(Twistless Yarn)は、繊維間の結合力(撚り)が存在しないため極めて引張強度が低く、そのまま製織すると織機の開口運動や打込みの張力に耐えきれず断糸します。これを回避するため、従来はキャリアとして水溶性プラスチック(PVA)を混紡・融着させ、織った後に溶かすプロセスが不可欠でした。当社のカバーリング技術は、無撚の長繊維綿(コア部)に対し、極細の綿糸(シース部)を所定のピッチおよび動的張力(Dynamic Tension)でらせん状に巻き付ける構造を採用。これにより、水溶性化学物質による架橋補強に依存することなく、製織応力に耐えうる弾性的モーメント(Elastic Recovery)と引張強度を物理的に担保します。
- 繊維構造と吸水・水和エネルギー(Porosity and Capillary Fluidics)タオルの吸水効率は、繊維間の微視的な隙間(空隙率/ Porosity)が生み出す毛細管圧力(Capillary Pressure)に支配されます(Lucas-Washburnの式に基づく)。ねじりを極限まで排除した「甘撚り」や「カバーリング糸」は、繊維同士の密着を防ぐため空隙率が最大化され、接触した水を瞬時に吸い上げる高い毛細管力を発揮します。一方、ホテルのリネン規格に適応する「双糸(2本撚り)」は、ねじりによって繊維密度を高め、空隙率を下げる代わりに、物理的せん断摩擦(摩耗)や水分によるセルロース結晶の膨潤・収縮に対する剛性(Structural Integrity)を高める設計となっています。
- 紡績パートナーシップと機能性特許の知財基盤(Collaborative R&D and Patent Foundations)特定の織機や自社設備に縛られない柔軟なサプライチェーン(ファブレス紡績モデル)を構築。国内外の紡績会社とデータベースを共有し、綿花自体の繊維長(ステープルファイバー)や、甘撚り加工の熱処理条件、あるいは意匠糸の共同開発を推進しています。糸の構造制御および特定のカバーリング複合処理に関する2件の国内特許、および現在申請中の1件(2026年現在)は、この長年の共同研究が実証した機能的な知財基盤(IP Assets)となっています。