朝の洗顔のあとや、お風呂上がりのふとした瞬間。 暮らしのなかで、私たちが毎日のように肌を委ねる1枚のタオル。
使い慣れたその布が、最初は「1本の糸」から始まっていることに思いを巡らせる機会は、あまり多くないかもしれません。
タオルの産地として知られる今治では、昔からそれぞれの工程を専門の職人が担う「分業制」のもとで、何十もの手と、清らかな水資源を通じて1枚のタオルが紡ぎ出されていきます。
今回は、1本の糸が暮らしの道具へと姿を変えるまでの8つのプロセスを、ものづくりの背景とともにご紹介します。
01. 糸選び・紡績
すべての出発点となる、1本を見極める
タオルの性格を決める最初のステップは「糸選び」です。 綿花から糸を紡ぐ(紡績)段階から、繊維の長さやねじり(撚り)の強さによって、仕上がりの質感や耐久性が大きく変わります。
自社で紡績の設備を持たないからこそ、私たちは特定の糸に縛られることなく、国内外の無数の選択肢の中から「そのタオルに最もふさわしい1本」を自由に見極めることができます。過酷な洗濯に耐えるホテルの強さから、赤ちゃんの肌を優しく包む繊細さまで、用途に合わせた糸の選定がすべての始まりです。
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[糸選び。そのタオルに、ふさわしい1本を見極める。(詳細記事へのリンク)]
02. 撚糸・カバーリング(ねんし・かばーりんぐ)
道具としての風合いと強さを仕込む
届いた糸をそのまま使うだけでなく、必要に応じて自社の設備で糸を撚り合わせる「撚糸」の工程を挟みます。
私たちが独自に取り組む「カバーリング技術」も、この段階で行われます。綿の束のまわりに極細の綿糸を優しく巻き付けることで、水溶性プラスチック(PVA)などの補強材に頼ることなく、無撚糸のような柔らかさと洗濯に耐えうる強さを両立させています。
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[カバーリング技術。理想の風合いを求めて。(詳細記事へのリンク)]
03. 精練・漂白・染色・糊付け(せいれん・ひょうはく・せんしょく・のりづけ)
今治の水と、酵素の恵みを借りて
織り上げる前の「糸」の状態で不純物を洗い落とし、色を染め、織りやすくするための糊をつける「先晒し(さきざらし)」の工程です。
タオルの「吸水性の良し悪し」を左右するのは、実はこの精練の工程です。綿花が本来持っている天然の油脂分や不純物をどれだけ丁寧に洗い落とし、水を素直に取り込める状態に整えられるかが鍵となります。
重金属や硬度成分が少ない今治の良質な水(軟水)があってこそ、繊維を傷めずに不純物をきれいに洗い流し、高い吸水性を引き出すことができます。地元の専門染工場と協力するこのプロセスでは、化学薬品を抑えて自然界の酵素で洗う「バイオ精練」などを導入。水環境への負荷をあらかじめ抑える工夫を重ねています。
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[水に生かされ、水と生きる。精練と染色の選択。(詳細記事へのリンク)]
04. 整経
数千本の経糸を、寸分なく整える
織機にかける前に、数千本もの経糸(たていと)を一本の交差もなく、均一な張り具合で大きなドラム(ビーム)に巻き揃える準備工程です。
一本の配置ミスや張りのムラが、そのまま模様のズレや生地の欠陥につながるため、現場には静かな緊張感が漂います。糸同士の絡まりを防ぐために手作業で結ばれる仕切り紐(畦紐)など、裏方の道具にも職人の知恵が宿っています。
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[経糸を整える。たった一本の間違いも許されない緊迫感。(詳細記事へのリンク)]
05. 製織
「糸の機嫌」に人間と機械を合わせる
整えられた経糸に緯糸(よこいと)が交差し、タオル特有のループ状の「パイル」が次々と立ち上がっていく織りの工程です。
高速で織り上げる「エアジェット織機」や、デリケートな糸を優しく運ぶ「レピア織機」を使い分けながら、季節や湿度によって変化する「糸の機嫌」を指先で確かめ、コンマ単位で機械の調整を重ねていきます。
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[糸の「機嫌」を織り込む。ボタンひとつではタオルにならない。(詳細記事へのリンク)]
06. 糊抜き・仕上げ洗い
繊維本来のやわらかさを開花させる
織り上がったばかりの生地をたっぷりの水で洗い流し、織る際につけた保護用の糊を取り除く工程です。
水を通すことで締め付けられていた繊維が解放され、空気をたっぷり含んでふんわりと膨らみます。今治タオルならではの高い吸水性と優しい肌触りは、この仕上げの洗いや乾燥によって引き出されます。
07. 縫製・仕上げ
端っこ(耳・ヘム)に宿る丁寧な針仕事
長く織り上がった生地を1枚ずつのサイズにカットし、両端の「耳」や上下の「ヘム」をミシンで縫い上げていく工程です。
厚みがあり伸び縮みしやすいパイル生地は、ミシンの針がパイルを巻き込んでしまったり、縫い代が歪んだりしやすい繊細な素材です。職人は指先で生地の膨らみをコントロールしながら、綺麗な四角い形を保てるよう丁寧に針を進めます。
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[端(ヘム)に宿る工夫と、最後の人の手。(詳細記事へのリンク)]
08. 検品・出荷
人の目と指先が届ける、最後の安心
縫製を終えたタオルは、出荷前の最終チェックへと向かいます。
無数の立体的なパイルを持つタオルは、光の当たり方で陰影が変わるため、自動センサーでは正常なふくらみと織りキズの判別が困難です。そのため、熟練の職人が「人の目」と「指先の触覚」で1枚ずつ手作業で検品し、最後に検針機(金属探知機)を通して皆様のもとへ送り出します。
何十もの手と、水がつなぐ静かなバトン
1本の糸から、あなたの手元にある1枚のタオルへ。
そこには、決して目立つことのない何十もの工程と、それぞれの現場で道具と向き合い続ける職人たちの手仕事が、静かなバトンのようにつながっています。
次にタオルを手にとり、お顔や手肌を拭うとき、その端っこの縫い目やふっくらとしたパイルの向こう側にあるストーリーを、ほんの少し思い出していただければ幸いです。